2024年12月、NIKEは厳しい業績と戦略的転換点に直面している。売上高は前年同期比8%減の123億5400万ドル、営業利益は27%減の13億9200万ドルと、厳しい数字を記録した。しかし、この苦境の中で、NIKEは原点回帰とも言えるスポーツ中心の戦略へと舵を切ろうとしている。今回は最新決算からNIKEの今後について考察する。
財務状況と企業価値
NIKEの2025年度第2四半期(2024年9月-11月)の財務結果は、企業が直面している課題を浮き彫りにしている。売上高は123億5400万ドルで、前年同期比8%減少した。
これは主に、NIKEダイレクトの売上が13%減少し、卸売りが3%減少したことによるものだ。特にNIKEブランドのデジタル売上が21%減少したことが大きく影響している。
営業利益は13億9200万ドルで、前年同期比27%減少した。これは売上高の減少に加え、粗利益率が100ベーシスポイント低下して43.6%になったことが要因だ。
一株当たり利益(EPS)は0.78ドルで、前年同期比24%減少したが、アナリスト予想の0.65ドルは上回った。
財務健全性の面では、現金および短期投資が98億ドルと、前年比で2億ドル減少している。
これは主に自社株買いや配当金支払い、設備投資によるものだが、依然として強固な財務基盤を維持している。
株価
チャートは私の画面。
基本的に重要な移動平均線とトレンドを示す。
(欧米の投資家は50日線を重要視します。あとは200日線)
移動平均線は200日線が水色、50日線が紫、21日線が黄色、9日線がピンク。
銘柄:NKE
株価:76.94$ (2024年12月21日時点)
年初来:-29.13%
出典:Yahoo Finance: https://finance.yahoo.com/quote/NKE/
最新決算からの考察
セグメント別では、北米地域の売上が8%減少し、中国地域が11%減少した。
これは、NIKEが直面している地域ごとの課題を示している。
製品カテゴリー別では、フットウェアの売上が11%減少した一方、アパレルは1%の減少に留まり、エクイップメントは14%増加した。
今後の見通しについて、NIKEは第3四半期の売上高が前年同期比で低二桁台の減少を予想している。
これは、新CEOのエリオット・ヒル氏が打ち出した戦略的変更の影響を反映している。
CEOの洞察
新CEOのエリオット・ヒル氏は、NIKEが直面している3つの主要な課題を指摘した:
- 過度のプロモーション活動
- スポーツへの集中の欠如
- 卸売業者との関係悪化
ヒル氏は、これらの課題に対処するため、以下の戦略を打ち出している:
- スポーツを中心に据えた製品開発とマーケティング
- プロモーション活動の抑制と、フルプライス販売の強化
- 卸売パートナーとの関係修復
「スポーツこそが我々のブランドを真正なものにする」というヒル氏の言葉は、NIKEの原点回帰を示唆している。
ヒル氏は就任後60日間で、世界各地のNIKEの拠点を訪問し、チームメイト、パートナー、消費者と直接対話を行った。
この経験から、NIKEの強みを最大限に活用していないという認識を得た。
NIKEの強みには、世界的に有名な3つのブランド、トップアスリートやチーム、リーグとのパートナーシップ、特許取得済みのイノベーション、幅広い価格帯の製品ラインナップ、190カ国以上でのプレゼンス、複数チャネルにわたる統合マーケットプレイス、サプライヤーや製造パートナーとの強固な関係、そして何より情熱的で才能あるチームメイトたちが含まれる。
市場ポジションと競争
NIKEは依然として世界最大のスポーツウェアブランドだが、競争が激化している。
特に、New BalanceやAdidasなどの競合他社が、ライフスタイルやレトロコートスタイルのカテゴリーで市場シェアを拡大している。
北米市場では、NIKEの高価格帯の現代的スタイルやレトロコートオファリングの人気低下が見られる。これは、NIKEの新製品が主流の消費者に十分に訴求できていない可能性を示唆している。
中国市場では、地元ブランドの台頭や経済環境の変化により、NIKEは厳しい競争に直面している。
しかし、NIKEは依然として強力なブランド資産と業界をリードする広告予算を持っており、これらは長期的な競争優位性として評価されている。
ビジョンと将来展望
NIKEの新たな戦略的方向性は以下の点に集中している:
- ランニング、バスケットボール、トレーニング、フットボール、スポーツウェアの5つの主要カテゴリーに注力
- 男性、女性、子供向けの「Fields of Play」と呼ばれるセグメント別チームの設立
- ブランドマーケティングへの投資増加と、パフォーマンスマーケティングへの依存度低下
- 卸売パートナーとの関係強化と、統合されたマーケットプレイスの構築
これらの戦略は、短期的には売上高や利益率に悪影響を与える可能性があるが、長期的にはNIKEのブランド価値と市場ポジションを強化することを目指している。
ヒルCEOは、「NIKEの持続可能で収益性の高い成長への道筋は、スポーツを通じてもたらされる」と述べており、この戦略がNIKEの将来の成長を牽引すると確信している。
製品イノベーションと将来の成長
NIKEは製品イノベーションを通じて、市場での競争力を維持し、成長を促進することを目指している。特に注目すべき点は以下の通りだ:
- ランニングカテゴリー:Pegasus 41、NIKE Shox、Vomero 18、Pegasus Premiumなど、新しいモデルの発売が好評を博している。これらの製品は、NIKEの技術革新と消費者ニーズへの適応を示している。
- バスケットボール:男性向け、女性向け、子供向けの製品ラインナップが充実している。特に、Sabirina 2がNBAで2番目に多く着用されているスニーカーとなり、Kobeラインがマーケット最大のシグネチャーフランチャイズになるなど、大きな成功を収めている。
- トレーニング:男性向け、女性向け、子供向けのトレーニング製品が好調で、特にMetconシリーズが引き続き強みを発揮している。
- フットボール(サッカー):グローバルフットボールカテゴリーでは、男性向けと子供向けの製品が成長を見せている。
- スポーツウェア:新しいフランチャイズ製品(NIKE Shox、Vomero 5、LD-1000、P-6000など)が勢いを増している。
これらの製品イノベーションは、NIKEが各スポーツカテゴリーにおいて競争力を維持し、消費者の需要に応えていることを示している。
マーケティングと消費者エンゲージメント
NIKEは、ブランドマーケティングへの投資を増やし、スポーツモーメントを活用した感動的なストーリーテリングに注力している。具体的な取り組みには以下が含まれる:
- スポーツマーケティングの強化:NFL、NBA、WNBA、MLBなどの主要リーグとのパートナーシップを更新し、長期的な関係を構築している。
- 大規模なマーケティングキャンペーン:「Winning Isn't Comfortable」ランニングキャンペーンが2024年のAd Age's Best Adを受賞するなど、インパクトのある広告を展開している。
- スポーツイベントとの連携:シカゴマラソンやニューヨークマラソンなど、主要なスポーツイベントでのプレゼンスを強化している。
- デジタルマーケティングの最適化:パフォーマンスマーケティングへの依存度を下げ、オーガニックトラフィックの増加を目指している。
これらの取り組みにより、NIKEはブランドの認知度を高め、消費者との感情的なつながりを強化することを目指している。
地域別戦略
NIKEは各地域の特性に合わせた戦略を展開している:
- 北米:新リーダーのもと、卸売パートナーとの関係再構築、NIKE Directの再設定、ランニング専門店への投資などを進めている。
- 欧州・中東・アフリカ(EMEA):NIKE Digitalをプレミアムプラットフォームとして再構築し、フルプライス販売の比率を高めている。
- 中国:地元デザインのExpress Lane製品に注力し、フルプライス需要の強さを活かしている。また、上海マラソンなどのイベントを通じてスポーツの普及に取り組んでいる。
- アジア太平洋・ラテンアメリカ(APLA):新しいスタイルが消費者に好評で、特にルックオブランニングフランチャイズが三桁成長を遂げている。
これらの地域別戦略により、NIKEは各市場の特性に合わせたアプローチを取り、成長機会を最大化することを目指している。
結論
NIKEは現在、重要な転換期にある。財務結果は短期的には厳しい状況を示しているが、新CEOの下で打ち出された戦略は、長期的な成長と市場リーダーシップの回復を目指している。
スポーツを中心に据えた製品開発、ブランドマーケティングの強化、卸売パートナーとの関係修復、NIKE Directの再構築など、多面的なアプローチを取っている。
投資家は、この転換期における短期的な業績の変動と、長期的な成長ポテンシャルのバランスを慎重に見極める必要がある。
NIKEの強力なブランド資産、イノベーション能力、グローバルな展開力は、長期的な競争優位性の源泉となっている。
今後数四半期は厳しい状況が続く可能性が高いが、NIKEが実施している戦略的変更が成功すれば、持続可能な成長軌道に回帰する可能性は高い。
スポーツを通じた成長という原点回帰の戦略が、NIKEの将来をどのように形作っていくか、注目が集まっている。
羊の雑記
NIKEに関しては、株価としては安くなっているので買いたいなと思いがちですが、羊はもう少し様子を見たいと思っています。
理由としては、ブランド力の低下に対しての画期的な戦略ができているように現時点では思えないですし、選択肢が多い中で、若者が特段NIKEを選ぶほどの理由もなければ、ライフスタイルで他のブランドの方が魅力が高い傾向にあることです。
おそらく強いブランドだっただけに時代の変化への対応が遅れたと思っています。
株価は安いので、企業自体の戦略が今後うまく行き、トレンドが見えてきたら、購入候補にいれてもいいと言われていますが、成長力が著しく今後期待されるわけでもなく、わざわざ買う銘柄でもないかなと思いますね。
ちなみにアメリカの投資家は、今株価が安いうちに買っている人が多いです。でも製造、アパレル業でもあるので、そんなに成長力が今後あるかと思うと疑問ですね。
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