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Salesforce 決算:AI時代の覇者となるか、2025年の現在地

顧客関係管理(CRM)ソリューションの世界的リーダーであるSalesforce(銘柄コード:CRM)。同社は2025年現在、AI技術を中核に据え、企業向けデジタル変革の最前線を走り続けている。本記事では、最新の財務データ、経営陣の戦略、市場環境などを多角的に分析し、Salesforceの企業価値と将来展望を明らかにする。

Technical chart

基本的に重要な移動平均線とトレンドを示す。

(欧米の投資家は50日線を重要視。あとは200日線)

※移動平均線は200日線が水色、50日線が紫、21日線が黄色、9日線がピンク。

銘柄:CRM

株価:276.03$ (2025年5月29日時点) 

出典:YahooFinance:https://finance.yahoo.com/quote/CRM/

1. 財務表から読み解く企業価値

Salesforceの2026年度第1四半期(2025年2月~4月)決算は、同社の持続的な成長力と収益性の高さを改めて示した。

  • 成長トレンド

    • 売上高: 第1四半期の売上高は98億3000万ドルと、前年同期比8%増を達成した 。サブスクリプション及びサポート収益も同様に好調で、恒常通貨ベースで9%増となった 。通期では、売上高ガイダンスを4億ドル上方修正し、410億ドルから413億ドルのレンジを見込む 。これは、特に為替の追い風を反映したものである 。

    • 営業利益: 第1四半期のGAAPベース営業利益率は19.8%、non-GAAPベースでは32.3%と高い水準を維持している 。通期でもnon-GAAP営業利益率34.0%の目標を堅持しており 、収益性への強いコミットメントがうかがえる。

    • 純利益: 第1四半期のGAAP希薄化後1株当たり利益(EPS)は1.59ドル 、non-GAAP希薄化後EPSは2.58ドルであった 。通期ガイダンスも上方修正されている 。

    • フリーキャッシュフロー: 第1四半期の営業キャッシュフローは65億ドル 、フリーキャッシュフローは63億ドルと 、潤沢なキャッシュ創出力を見せつけた。通期のフリーキャッシュフロー成長率は9%~10%を見込んでいる 。

    • cRPO(Current Remaining Performance Obligation:現行契約残高): 将来の収益の先行指標となるcRPOは、第1四半期末時点で296億ドルと、前年同期比12%増(恒常通貨ベースで11%増)となり 、力強い受注状況を示している。

  • 主要な財務比率

    • 資料からは直接的なPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)などの市場評価指標や、ROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)といった収益性指標の業界平均との比較は読み取れない。

      しかし、高い営業利益率やキャッシュフロー創出力は、資本効率の高さを示唆する。

  • 財務健全性とリスク

    • 2025年4月末時点で、現金及び現金同等物は109億2800万ドル 、有利子負債(非流動負債)は84億3500万ドルであり 、財務基盤は安定的である。

    • 株主還元にも積極的で、第1四半期には自社株買いと配当により約31億ドルを株主に還元した 。

    • リスクとしては、80億ドル規模のInformatica買収に伴う統合リスクやのれん代償却の影響 、マクロ経済の不確実性、AI分野における競争激化などが挙げられる。

      特にInformatica買収は、Salesforceの2027年度初頭(2026年2月頃)の完了を見込んでいるため 、そのシナジー効果の発現時期と規模が注目される。買収はnon-GAAPベースで2年以内に利益貢献する見込みである 。

2. 四半期・年次決算書から読み解いた考察

Salesforceの2026年度第1四半期決算は、市場予想を上回る堅調な内容であった。

 

  • 主要指標の前年同期比比較:

    • 売上高は前述の通り8%増の98億3000万ドル 。
    • GAAP営業利益率は19.8%(前年同期は18.7%) 、non-GAAP営業利益率は32.3%(前年同期は32.1%)と改善を見せた 。
    • GAAP希薄化後EPSは1.59ドル(前年同期は1.56ドル) 、non-GAAP希薄化後EPSは2.58ドル(前年同期は2.44ドル)であった 。



  • セグメント別成績:

    • 各クラウド製品群も成長に貢献している。恒常通貨ベースでの前年同期比成長率は、Sales Cloudが7%、Service Cloudが7%、Platform & Otherが14%、Marketing & Commerceが4%、Integration & Analytics(MuleSoft、Tableau含む)が10%であった 。

      特にPlatform & Other部門の成長が目立つ。Data CloudとAI関連の年間経常収益(ARR)は10億ドルを超え、前年同期比120%以上の驚異的な成長を遂げている 。
  • ガイダンスとマクロ経済環境:

    • 2026年度通期の売上高ガイダンスは、主に為替レートの好転(2億5000万ドルの追い風見込み)を織り込み 、従来の405億~409億ドルから410億~413億ドルへと引き上げられた 。

    • 第2四半期の売上高ガイダンスは101億1000万~101億6000万ドル(前年同期比8~9%増、恒常通貨ベース7~8%増)と設定された 。

    • ロビン・ワシントン社長兼最高執行・財務責任者(COFO)は、ガイダンスは一貫した需要環境を反映していると言及しており 、マクロ経済の不透明感の中でも一定の事業基盤の強さを示している。
  • 投資家にとっての重要ポイントとリスク:

    • AI戦略の中核をなす「Agentforce」と「Data Cloud」の急成長は最大の注目点である。Agentforceは提供開始からわずか数ヶ月で8000件以上の契約(うち半数は有償)を獲得し 、Data Cloudは第1四半期に22兆レコードを取り込み、前年同期比175%増を記録した 。

    • Informatica買収は、Salesforceのデータ戦略を大きく前進させる可能性を秘める一方で、買収額の大きさや統合の難易度といったリスクも伴う。買収完了後のシナジー創出と、non-GAAPベースでの利益貢献(2年以内目標)の達成が焦点となる 。

    • SMB(中小企業)市場での好調な伸び や、特定の地域(英国、フランス、カナダ、アジア太平洋地域 )での力強い成長もポジティブな要素である。

3. CEOの洞察

マーク・ベニオフ会長兼CEOは、決算説明会や各種発言を通じて、Salesforceの将来像と戦略を力強く語っている。

  • 成長戦略と業界の方向性:

    • ベニオフCEOは、AI革命が進行中であり、全ての企業が「データ変革」を迫られていると強調する 。この変革を主導するのが、Salesforceが提唱する「Agentforce」(デジタル労働力)であり、これを支えるのが「Data Cloud」であると位置づけている 。

    • 同氏は、Salesforceが持つ「Apps(アプリケーション群)、Data(データクラウド)、Agents(エージェントフォース)、Metadata(メタデータプラットフォーム)」を統合した「ADAMフレームワーク」が、企業のAI活用における競争優位性の源泉となると述べている 。

    • Informaticaの買収は、このデータ戦略を加速するための重要な一手であり、「No.1 AI CRM」と「No.1 AI MDMおよびETL」の融合により、エンタープライズ向けに最も完全でインテリジェントなAI・データプラットフォームを構築することを目指すとしている 。

    • 成長ドライバーとして、SMB市場やミッドマーケットでの力強い伸びを指摘し 、これらの市場への投資を強化する方針を示唆している。具体的には、営業担当者を新たに1000~2000人採用する計画もある 。
  • 株主や投資家へのメッセージ:

    • ベニオフCEOは、利益率とキャッシュフロー創出へのコミットメントを繰り返し表明しており 、成長と収益性のバランスを重視する姿勢を明確にしている。

    • Informatica買収についても、規律あるM&Aフレームワークに則ったものであり 、株主価値の最大化に資するとの見解を示している。

    • AI技術の進化と普及のスピードは驚異的であり、Salesforceがこの巨大なビジネスチャンスを捉える絶好の位置にいることを強調している 。
  • 発言内容と業績・市場環境との整合性:

    • CEOが強調するAgentforceとData Cloudの成長は、実際の決算数値(ARR10億ドル超 、顧客獲得数など )によって裏付けられている。

    • Informatica買収の戦略的意義は理解できるものの、市場からは買収価格や希薄化懸念に対する慎重な見方も聞かれる。

      これに対し、CEOは買収が長期的な成長に不可欠であり、財務規律も維持する点を説明している 。

    • 「全てのAI変革はデータ変革である」というCEOの言葉 は、データ基盤の重要性が増す現在の市場環境と合致しており、Informatica買収の背景を的確に捉えていると言える。

4. 市場ポジションと競争

Salesforceは、CRM市場において長年にわたり圧倒的なリーダーの地位を確立してきた。

  • 市場シェアと競争優位性:

    • 同社は自らを「世界No.1 AI CRM」と称しており 、その市場シェアは競合他社を大きく引き離している(具体的なシェア数値は今回の資料にはないが、業界調査で首位であることは広く認知されている)。

    • 競争優位性は、Customer 360という包括的な顧客情報プラットフォーム 、Einstein AIによる高度な分析・予測機能、そして新たに加わったAgentforceによる業務自動化能力 、そしてこれら全てを支えるData Cloudとメタデータプラットフォームの統合力にある 。

      この「ADAMフレームワーク」 は、他社にはない深いレベルでの連携を実現している。
  • 市場の成長性と課題:

    • CRM市場は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進や顧客中心主義への移行を背景に、今後も堅調な成長が見込まれる。特にAIを活用したCRMソリューションへの需要は急速に高まっている。

    • 課題としては、Microsoft、Oracle、SAPといった大手ITベンダーとの競争激化や、特定領域に特化したスタートアップ企業の台頭が挙げられる。また、世界経済の不透明感や金利上昇が企業のIT投資抑制につながる可能性も考慮する必要がある。
  • 製品・サービスの差別化:

    • Salesforceの最大の強みは、セールス、サービス、マーケティング、コマース、アナリティクス、インテグレーションといった幅広い領域をカバーするアプリケーション群を、単一の信頼できるプラットフォーム上で提供している点にある 。

    • Data Cloudは、様々なシステムに散在する顧客データを統合・調和し、AIが活用できる形にするための基盤を提供する 。

    • Agentforceは、このデータを活用して定型業務を自動化したり、従業員の業務を支援したりする「デジタル労働力」を生み出す 。

    • Informaticaの買収が完了すれば、データ統合、品質管理、ガバナンスといった領域での能力が大幅に強化され 、より包括的なデータソリューションを提供できるようになる。
  • 市場トレンドの影響:

    • 生成AIの急速な進化は、CRMのあり方を根本から変えつつある。Salesforceは、このトレンドをいち早く捉え、Agentforceなどの新機能を積極的に投入している 。

    • 企業が保有するファーストパーティデータの価値が再認識されており、Data Cloudのようなデータ統合基盤の重要性が増している 。

    • サブスクリプションモデルから消費ベースモデルへの移行も見られ、SalesforceもAgentforceなどで新たな価格体系(Flex Credits)を導入し始めている 。

5. ビジョンと将来展望

Salesforceは、AIとデータを活用して顧客企業の成功を支援し、ひいては社会全体の生産性向上に貢献するという壮大なビジョンを掲げている。

  • 短期・中長期の目標:

    • 短期的には、2026年度の売上高目標410億~413億ドル 、non-GAAP営業利益率34.0%の達成 が掲げられている。

    • 中長期的には、AgentforceとData Cloudを核としたAI CRMプラットフォームをあらゆる規模の企業に提供し、「デジタル労働力」の導入を推進することで、顧客企業の生産性向上、コスト削減、成長加速を実現することを目指す 。

      Data Cloud + AIのARRは既に10億ドルを超え、前年同期比120%以上の成長を遂げており 、今後の大きな成長エンジンとなることが期待される。
  • ビジョン達成に向けた戦略:

    • M&A: Informaticaの買収は、データ戦略を強化し、AIプラットフォームの完成度を高めるための最重要戦略の一つである 。

    • 研究開発: AI、データクラウド、Agentforceといった成長領域への継続的な投資を行い、製品イノベーションを加速させる 。同社は年間3回のメジャーアップデートに加え、ポートフォリオ全体で定期的な機能強化を行っている 。

    • 販売体制の強化: 特に成長著しいSMB市場や特定地域での営業体制を増強し、新たな顧客層の開拓を進める 。

    • エコシステム: AWS Marketplaceなどを活用したパートナー戦略も強化しており 、AWS経由の取引は急増している 。

  • ビジョンの実現可能性とリスク:

    • Salesforceが持つ強力な顧客基盤、ブランド力、そしてAIとデータに関する先進的な技術力は、ビジョン実現に向けた大きな推進力となる。

    • しかし、Informatica買収の成功裏の統合 、AI分野における技術革新の速さと競争の激しさへの対応、そしてマクロ経済環境の変動は、ビジョン達成に向けたリスク要因となり得る。特に、CEO自身が述べるように、AIの導入は単なる技術導入ではなく、企業のデータ変革そのものであり 、顧客企業がこの変革をスムーズに進められるかどうかが鍵となる。

  • 投資家にとっての注目点:

    • AI戦略の進捗、特にAgentforceとData Cloudの顧客獲得数と収益貢献度。
    • Informatica買収完了後の統合プロセスとシナジー効果の発現。
    • SMB市場や特定成長地域における事業拡大のペース。
    • 利益率とキャッシュフローを維持しながら成長を継続できるか。

Salesforceは、CRM市場のリーダーとして確固たる地位を築きつつ、AIとデータを新たな成長の柱として、エンタープライズソフトウェア業界に再び大きな変革をもたらそうとしている。その挑戦は道半ばであり、今後の動向から目が離せない。

 

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