ローリング・リセッションを突破する破壊的イノベーションの波:AIと新興技術が導く米国経済の次なるステージ

インフレとの闘いが終わる前に、デフレへの転換が現実味を帯び始めたとも言われている。
一方で、AIを含む破壊的イノベーションが経済全体を根本から作り変える予兆が見え隠れする。
出典:Deed - Attribution-ShareAlike 4.0 International - Creative Commons
自動車業界や住宅市場、インフレ率の動向をはじめとする数々のデータを見ると、米国経済が「ロ―リング・リセッション」という段階的な景気後退を繰り返している様子が浮かび上がる。
昨日発表されたキャシーウッドのレポートには、連邦準備制度(Fed)の急ピッチな利上げ(約1年で22倍)が景気の停滞や企業のマージン圧迫を招いている構図が詳細に示されている。
※私のXの投稿でキャシーウッドのレポートを日本語訳にしています。
🚨👩💻キャシーウッド姐さんが大事なレポートを先ほど発表したので、翻訳全文載せときます。
— ひつじ🇺🇸米国株投資 (@USStockSheep) 2025年1月16日
とても大事な事が書いてるので、少々長いですが読むことをお勧めします。
【2024年第4四半期:ARKのCIOからのコメント】
キャシー・ウッド著
S&P…
一方で、AIやロボティクス、エネルギー貯蔵といった破壊的イノベーションが、企業のコスト構造を下支えしつつ新たな需要を喚起する可能性を強調する部分もあり、単純に悲観や楽観に傾かない複雑な展望が特徴的だ。
以下では、レポートに含まれる主な要旨を分解し、それらがつながり合うメカニズムを深く考察する。
ローリング・リセッションの背景
主要な始点として挙げられるのが、2022年春からFedが急激に利上げを開始したことだ。
本来ならインフレ沈静化を狙う金融引き締めが、企業の投資意欲を殺ぎ、消費者の大口支出を抑制する。
それが自動車や住宅、資本財などの高額製品・サービスのセクターから順次経済を冷やしていき、局所的な不況が波打つように繰り返される構造がこのローリング・リセッションという捉え方につながっている。
さらに、いったん停滞に陥ったセクターは在庫積み上がりや販売価格の見直しを余儀なくされ、付随的に失業者が増加して購買力が落ちるため、また別の領域で需要後退が発生するという連鎖も想定される。
具体的な例として、中古車価格がピークから20%以上下落しているのに、まだ歴史的な水準より高い位置にある点が指摘されている。
いったん値崩れが始まっているのに、ベースラインに十分接近していない状態だ。
新車の年間販売台数もコロナ前の1,750万台まで戻らず、引き続き需要が伸び悩んでいる。
こうした在庫調整が一部進んでいるように見える一方で、まだ不十分な部分もある
つまり自動車業界は真の底を打ったかどうか微妙な段階にあると考えられる。
住宅市場でも低調が続いている。
住宅の着工や住宅取得のための手ごろさ(アフォーダビリティ)指数が頭打ちになり、既存住宅販売件数も410万件程度まで落ち込んでおり、リーマン危機時期の水準に近い。
賃貸物件に目を向けると、アパート建設ラッシュの影響で今後大量の新規ユニットが市場に参入し、供給過多に陥る可能性がある。
家賃の下落や空室率の上昇が進めば、住宅関連指標からインフレ指標への下押し圧力が増す展開も予想される。
これは物価全般をさらに押し下げ、名目の経済指標を軟化させる要因に転じるかもしれない。
物価上昇からデフレへの転換
CPIインフレ率は2022年当時に前年比9.1%まで急騰したが、その後は2.5%に落ち着き、むしろデフレ気味の要素が強まっているという見方がある。
企業側で見ると、S&P 500企業の利益率(グロスマージン)はコロナ前の平均35.0%から33.9%へ低下し、圧迫感が増している。
マージン縮小が続けば、企業は短期的に雇用を削ることで固定費を削減しようとする可能性が高い。
実際、恒久的失業者数の増加や失業率の揺れは、こうした動きを示唆しているように思われる。
インフレ率については、M2(マネーサプライ)の伸びが2022年末から2024年3月まで年率ベースでマイナス圏に入り、現状も歴史的にみて弱い3.7%程度という点が注目される。
一般に、M2の増減は物価や経済成長に先行すると考えられがちで、過去の例に当てはめると、今後CPIが2%を割り込み、場合によっては年後半以降マイナスに転じるリスクも否定できない。
2014年や2015年、2020年にも一時的に物価上昇率がゼロ付近まで落ち込む周期があったが、今回も類似の動きが表れつつあるかもしれない。
もっとも、こうした物価下落が全セクターで均一に進むとは限らない。
需給ギャップが大きい業界では価格競争が急速に激化し、在庫一掃のために値下げを余儀なくされる一方で、需要が堅調なサービスやハイテク関連は依然として高値水準を維持するケースもある。
自動車や住宅が需要後退の圧力を強く受けているのに対し、デジタル資産やAI関連領域などではむしろ強気な投資が続くかもしれない。
セクター間格差が今後ますます拡大することも想定される。
イノベーションが招く構造変化
レポートでは、経済低迷からの脱却には破壊的イノベーションが大きな役割を担うと強調されている。
具体的には、自動運転やマルチオミクス解析、ブロックチェーン、そして人工知能(AI)などの技術が、企業の生産性と新規需要を急激に押し上げる契機になるという見方がベースにある。
これらは単にコスト削減や省人化の手段としてだけでなく、全く新しいビジネスモデルの創出をも促す。
勢いを失った既存市場に替わる成長エンジンとなりうる点が重要だ。
例としてAIの活用を見てみる。
これまでデータ分析や広告セグメンテーションなど一部分での利用が中心だったAIは、自然言語処理や画像認識領域で著しく性能を向上させている。
とりわけ大規模言語モデルが進展するにつれ、顧客サポートの自動化や高度な製品設計支援が現実的なラインに入り始めた。
そうなれば、労働コストの削減だけでなく、アイデア創出の速度やサービス品質の向上といった形で企業のイノベーション能力を拡張すると考えられる。
経済全体を見ても、新興企業がこの流れを取り込むことで市場の集中を崩し、新しいプレーヤーが浮上するといった再編過程が加速する可能性がある。
一方で、このAIブームが資金の偏在を招いている事実も無視できない。
2023年には株式市場の一部、特にAI関連株に急激な資金集中が起こり、歴史的にも突出した株式の集中度が観測された。
それらの主役がさらに上昇を続けるのか、あるいは次の段階で他のセクターへ資金が回るのかは議論の余地がある。
レポートは、AI銘柄がネクストステージに移るにあたり、破壊的イノベーションを担う企業が多角的に現れていく展開を想定している。
つまり、少数のメガテック企業だけではなく、視点を変えれば無名のスタートアップやソフトウェア技術者集団から革新的なソリューションが相次ぎ登場する可能性がある。
投資の視点では、どの企業が「ソリューションの覇権」を握るのかは簡単には読めないが、集中から拡散へと潮目が変わった時に大きな価値転換が起こると示唆されている。
利上げ、金利、そして市場のゆがみ
金利の動きもレポートの重要な論点の一つだ。
実際、2021年3月には長短金利差(10年債と2年債の利回り差)は+159ベーシスポイントあったが、2023年7月には-108ベーシスポイントと約270ポイントも急反転した。
ここまで大きく金利差が逆転したのは1980年代前半以来という。
通常、長短金利差の逆転(イールドカーブの逆イールド)は景気後退のサインと言われるが、その後2024年にかけてクレジット市場のベア・スティープニング(短期金利より長期金利がより速いペースで上昇する現象)も台頭し、むしろ将来的な景気やインフレの失速を織り込む動きが見られるのが興味深い。
国債市場と実体経済の「歪み」は、戦後の中では例のないレベルに達しているとも言える。
ハイイールド債のスプレッドが歴史的水準から見て狭いまま推移している点も、金融市場の潜在的なゆがみを示す。
通常、不況の兆候が明確になると、格付けの低い企業の債券は投資家がリスクを敬遠するためスプレッドが急拡大する。
ところが今回の局面では資金過多のプライベートエクイティやプライベートクレジットが依然豊富に存在し、余った資金がリスクの高い債券を押し上げ、スプレッドを押し下げている側面がある。
これにより企業は思ったほど資金繰りが悪化せず、一部のゾンビ企業が生き延びてしまうといった「健全な新陳代謝」の阻害が生じる。
長期的に見ると、非効率企業の淘汰が進まず、イノベーションがゆっくりしか浸透しないリスクもある。
労働市場の脆弱性とサームルール
レポートが注目しているもう一つのシグナルが、失業率の変化を捉えたサームルールだ。
これは失業率の3カ月移動平均が、直近12カ月間の最低水準より0.5ポイント上昇すると「すでに3カ月前から景気後退に入っていた」という指標で、2023年7月に最初のシグナルが点灯した。
その後は少し改善につながったものの、リスクの後退と呼ぶには早い局面であり、しかも過去の雇用統計が大幅に下方修正されたことを考慮すると、市場の見立てより実際には弱い雇用環境にある可能性がある。
さらに「辞職率」(quit rate)の急落も、労働者が積極的に転職して賃金を引き上げる環境が衰えていることを示唆する。
コロナ直後の「大退職時代(Great Resignation)」から一転、転職に対する慎重姿勢が強まりつつある。
企業がリストラに傾きやすい空気が生まれれば、それはさらに消費マインドを冷やし、経済全体の伸びを鈍化させる連鎖を招くかもしれない。
一方、中小企業では景気後退並みの悲観的な心理が広がりながらも、選挙結果を受けた行政改革(たとえば規制緩和)への期待から楽観ムードがわずかに浮上している。
こうしたブレは「希望的観測」と「実際の業績」のギャップを生みやすい。
今後も小規模ビジネスが続々と失速するなら、失業率が再び上昇してサームルールを再点灯させる可能性は十分ある。
イノベーションによるデフレと経済の再成長
総合すると、キャシーウッドのレポートはインフレが「供給ショック」をきっかけに一時的に上振れしたに過ぎず、むしろ破壊的イノベーションが急速に普及することによってデフレ方向へ舵を切るだろうと考えている。
AIやロボティクス、マルチオミクス解析などの分野は、コスト構造そのものを塗り替え、結果として生産性向上や新しい収益源を生み出しやすい。
歴史的な視点で見ると、技術革命のタイミングではしばしば既存のインフレ圧力が無力化されるほどのコスト低減と需要創出が進み、次の大きな景気サイクルが始動する。
適切な金融環境が整えば、金利は市場の予想より低い水準に落ち着き、株式市場はAI関連の狭い銘柄集中から幅広い銘柄群へ波及する可能性があるという。
たとえば、かつて産業用ロボットが大規模に普及した時期には、一部の製造業が劇的な生産性改善を実現し、世界的な供給体制が変わった。
同様にAI活用企業がサービスの効率や品質を大きく変容させた場合、十分な労働力がいなくても多種多様な顧客ニーズを満たせる状態が生まれ、人件費の上昇圧力を跳ね返す。
技術が安定して広く浸透してくれば、今度は価格競争力が高まる一方で、サプライチェーン上の付加価値は別の形で創造される。
そこにさらなる新技術がレイヤーとして積み上がり、ビジネスモデルを再定義していく。
そういうメカニズムが大きなうねりとなり、インフレもデフレも今までと異なる様相を帯びる可能性がある。
まとめと視点の拡張
キャシーウッドのレポートは、目先の景気後退や物価動向だけでなく、企業のマージンや雇用動向、金融市場のゆがみ、技術革新によるコスト変動と新規需要といった多面的な指標を総合的に読み解いているのが特徴だ。
そのうえで、中長期的にはAIをはじめとする破壊的イノベーションが経済のけん引役として機能し、インフレ要因を上回るデフレ圧力と新たな成長局面を同時に生み出すという見通しを示している。
もちろん、こうしたイノベーションシナリオがどの程度の速度と広がりで現実化するかは不確定だ。
デフレ基調と大幅な金利低下がなければ、企業の新技術投資が鈍化するリスクもある。
一方で、AI産業への投資マネーが巨大化しすぎれば、ITバブルのような資金集中の副作用を引き起こす可能性もある。
しかし歴史を見ると、革新的な技術波が起きる時期には必ず過剰投資と淘汰が交互にやってきており、そこを経てから新たな産業基盤が形成されるのが不変のパターンだ。
この視点を日常的な例に置き換えれば、かつて高価だったパソコンが劇的に普及し、ウェブビジネスが成長していった過程を思い浮かべるとわかりやすい。
最初は一部の大企業や研究機関でしか扱えない技術が徐々に低価格化、最適化され、最終的には一般消費者レベルにまで広がる。
その過程で市場は混乱し、新しい企業が興る一方で既存企業が淘汰される。
そのすべてが落ち着いた時には、当初には想像できなかったサービス群が生活を便利にし、同時に安価に提供されている。
AIやロボティクス、エネルギー貯蔵といった領域も、まさに同様の軌跡をたどろうとしているとの見立てだ。
結局のところ、ローリング・リセッションという不連続な景気後退シグナル、一時的に高騰したインフレがあっさりデフレに転落しうるという金融環境、そしてAIを中心とした新技術の急成長が同時に進行している点にこのレポートの面白さがある。
それは決して単純な「景気が良くなるか、悪くなるか」という二元論では測りきれない複雑な状況にあるといえる。
先行きの不透明感が拭えない中でも、イノベーションへの投資が真のブレークスルーを生み出す可能性を秘めている以上、企業や投資家にとっては徹底的な技術トレンドの追跡が不可欠になる。
たとえ足元のマクロ指標が乱高下したとしても、技術進歩の速度は中長期で着実に蓄積されていく。
レポートが示唆するように、今後数年間でインフレと金利が期待を下回る低水準に安定するシナリオが実現すれば、多様な革新的企業が一斉に資金を調達しやすくなり、新たな成長プラットフォームを構築していくチャンスが増す。
そしてその連鎖が、既存の市場構造を大きく変えていくかもしれない。
すべてが動的な形でつながっているため、ローリング・リセッションというネガティブな側面と、破壊的イノベーションがもたらすポジティブな逆説の併存こそが、現時点の経済の真の姿といえる。
羊の雑記
昨日はCPIの結果で大きく相場は上げましたね。金利とVIXはいささか下げました。
といってもまだ金利高なので、注視が必要です。
なんだかんだ言っても長期では上昇目線なので積み立ては問題ないと思います。
あとは、以前みたいに2~3年相場が動かないと、その時間だけ資金がロックされて時間を味方にできないので、その場合に備えてポートフォリオはパターンを事前に検証してたほうが良いと思います。
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